前回に続き、生ドラムのミックスについての続きです。
今回は録音済みトラックに基本的なコンプやEQなどのエフェクトをかけていきますが、この「基本的な処理」というのは一体どこに注目して処理しているのか?に注目していただければと思います。
今回のビデオではProToolsのインサートスロットAのPlugin Alliance社のbx_console EというSSL4000Eコンソールのチャンネルストリップエミュレートプラグインを使い、録音時にSSLコンソールで録音モニターしているような状況をエミュレートします。
各キットへの処理の目的
1:キック
演奏のダイナミクスを大きく損なわない程度にダイナミクスを整える目的でコンプを施し、その結果低音に関しては必要十分なのでアタックの補正のみをEQで行っています。そしてこれらの処理をinsideとoutsideの両方のマイクに等しく行なっていますが、これは両方のマイクを足して一つの音色と考えてのアプローチです。
2:スネア
スネアに関しても演奏のダイナミクスを大きく損なわない程度にダイナミクスを整える目的でコンプを施し、アタックの補正をEQで行っています。また全体でブレンドした時に少々ローエンドが溜まる印象があったので、ほんの少しだけローカットを施しています。またキックと同様の理由でこれらの処理をtopとbottomの両方のマイクに等しく行なっています。
3:ハイハット
ハイハットのローカットはオンマイクで録る故のハイハット自体の不自然な低音が浮き上がるのを防ぐ目的です。今回は自然なサウンドに仕上げることを想定しての処理のため必要最低限のローカットに留めています。またダイナミクスに関してはハイハット自体というよりも大きく被ってくるスネアのピークを叩くようなイメージでの処理をしています。
4:タム
タムに関してはキックやスネア同様にダイナミクスを整える目的でコンプを施し、またキックやスネアがこのマイクに回り込む低音やタム自身の低音の適度な整理の為のフィルター処理とEQを施しています。タムの音像はキックやスネアに対して大きすぎ(近すぎ)ると遠近感として違和感があるので、低音においてその整理をするようなイメージです。またタムの倍音に関しては後述するオーバーヘッドがブレンドされることでまかないます。
5:オーバーヘッド
オーバーヘッドに関しては特にシンバル以外のキットが大きく被ってくることに注目していて、このマイクに入ってくる他のキットの被りのうち、キックのバランスを整える(ちょっとバランスを下げたいと感じた)目的の為のローカットを施し、スネアやタムなどに関してはできるだけそのまま自然に入ってくるような周波数ポイントでローカットを施しています。こうした処理をしてオーバーヘッドをブレンドすることで結果、ドラムキット全体的が自然なサウンドを得られるようしています。
6:アンビエンス
今回のアンビエンスマイクはセッティング位置が低めということもありキックをよく拾っているので、そのバランス補正としてローカットを施しています。ダイナミクスに関しては各キットのピークを抑え部屋鳴りを強調するようなイメージでコンプをかけています。
以上のことを踏まえてビデオを見てみましょう。
ビデオ 「エフェクト(基本的なエフェクト)」
基本的なエフェクトの目的や雰囲気を感じられたでしょうか?。このようなマルチマイクでのミックスでは個々の音の質で全てが決まるわけではなく互いが互いに影響を及ぼしあうため、いかに全てが混ざった状態で良い方向になるかがポイントです。そのためには被りをどう扱うかやそのコントロールが鍵となります。
被りをうまく活かす
また、コンプをかけるとそのマイクで主に拾いたい音以外の被り音が浮き上がってきます。このコンプすることで浮き上がってくる目的外の音への対処法は、例えばゲートを使って出来る限り目的外の音を強制的にカット(やエキスパンドによって軽減する方向の処理)する方法もありますが、処理すればするほど全体でみれば不自然感がぬぐえませんし、そもそもこのビデオのようなゴーストノートを含むプレイはゲートで切るのが難しい部類です。
もちろん楽曲毎の音楽性にもよるのでゲートで切ること自体を否定はしませんが、被りという目的外の音を完全排除するのではなく、今回のように被りの音をうまく調節することで被りを逆手にとってドラムサウンド自体の生々しさを活かすミックスを自分の手の内にすることは、ドラムミックスの基本テクニックを得る上で有用です。
そしてこれらの基本を知った上で、必要なら効果的なEQや音楽として必要なゲート、コンプ処理などを施すことが、目標とする音楽的仕上がりへの近道になるでしょう。
今回の基本的な処理はあくまで一つの事例ではありますが、ドラムをミックスする上での基本テクニックとして引き出しに入れておいていただければと思います。
次回はより積極的なダイナミクス処理をする時のアプローチをご紹介します。お楽しみに!
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