ミックス上達への道(生ドラム・3)

最終更新: 2019年8月5日


またまた前回の続き、生ドラムのミックスについての3です。


前回は生ドラムのミックスにおける基本的な処理の例をご紹介しましたが、この「基本的な処理」というのは、ドラムの音色やプレイのダイナミクス、マイクに入ってくる目的の音や被りの音を上手に活かしてサウンドをまとめるミックスアプローチでした。


今回は基本的な処理よりも積極的なダイナミクス処理を行ってみたいと思います。


音楽における必要な処理として、ダイナミクスを上手にまとめることはとても重要です。そしてその度合いは音楽性により様々です。ナチュラルなサウンドを必要とする音楽であれば、ドラムのダイナミクスは前回紹介したような自然な感じのダイナミクスへのアプローチが似合いますが、ロックのよう音楽やポップスの中でもよりコマーシャル性の高い音楽であればあるほど、よりダイナミクスを制限した方向のアプローチが必要になってくる可能性が高いです。よく聞く言葉で言えば「音圧が高い」ということになるでしょう。


それでは前回の「基本的な処理」よりも積極的にダイナミクス処理をするような処理をするためにはどのような点に着目すればいいのでしょうか。まずはビデオを見てみましょう。



ビデオ「エフェクト(積極的なエフェクト)」




コンプレッサーによる音色のコントロール


今回は前回のビデオでの処理の後にさらに別のコンプレッサーでダイナミクス処理をしています。この追加されたコンプレッサーでダイナミクスの処理とともに、前回はあまり積極的に行わなかった音色のコントロールもしています。これはどういうことかというと、ダイナミクス処理をすることによってマイクに入ってくる音の倍音やボトムのあり具合をコントロールしているというイメージです。



音を時間軸でイメージする


それを理解するにはまず楽器が発音するひとつひとつの音を時間軸でイメージしてみましょう。打楽器も含めた多くの音は細かく分析すると時間の進行とともに音が変化しています。例えばスネアの音が擬音でいうと「ターン」と鳴ったとします。まず最初の「タ」の部分に最も倍音(ほぼイコール、この楽器の音の中で高域を最も多く含む)を多く含み短かい時間だけ存在する「アタック成分」が現れます。その後の「ーン」の音はアタックに比べると倍音はグッと減って音が持続しつつも減衰していく「リリース成分」となるのが普通です。つまりこのスネアの音は時系列で見ると最初に高域が中心となった倍音が多く存在するアタック成分が発生し、その後は倍音は少ないが逆に基音を中心とし低域成分を含むリリース部分が現れるというわけです。


ところで多くのコンプレッサーはダイナミクスの効き具合を時間軸で変化できるよう調整できることが多いです。それがコンプレッサーのパラメーターでいうとアタックタイムとリリースタイムに当たります。


アタックタイムは簡単にいうと、入力した音がコンプが動作すべきレベル以上になってからどのくらいの時間で実際にコンプが効き始めるか?の時間です。例えば人間でいうと大きな音を聞いて身体がビクっ!!となるまでの「反応時間」とイメージしてもいいと思います。


それに対してリリースタイムは、入力した音がコンプされないレベルまで下がった時以降どのくらいの速さでコンプが実際に効かなくなるか?の時間です。例えば人間でいうと大きな音を聞いて身体がビクっとした後に音がなくなり今度は身体がリラックスする「落ち着く時間」とイメージしてもいいでしょう。実際は音がなくなってからではなく音量がある値を下回ってから復帰するまでの時間なのでちょっと違うのですが、ぼんやりイメージするにはわかりやすいかと思います。


例えばこのような波形の音が入ってきたとしましょう。オレンジ色の線がオリジナルの入力波形です。レベルのAのポイントを超えるとコンプが効き始め、下回るとコンプがかからなくなります。このレベルAの位置がスレッショルドです。

ここにとある設定のコンプレッサーをかけると仮定し、出てきた波形が緑色の線だとします。時間1がスレッショルドを超えた時、1から2までの時間がアタックタイムです。3がスレッショルドを下回った時、3から4までの間の時間がリリースタイムです。

アタックタイムとリリースタイムによる音色コントロール


さて、コンプのパラメータは他にもありますがそこは置いといて今はこのアタックタイムとリリースタイムの2つだけに注目します。まずはアタックタイム。


もしもアタックタイムのパラメータを速くすると、出力される音色はどんな風に変化するでしょうか?、アタックに対してより速くコンプが反応するのでアタックの倍音が圧縮される(小さくなる)→結果アタック部分の高域が減るように感じることになります。


今度は逆にアタックタイムを遅くするとどうなるでしょう?、アタック部分にも短いですが時間がありますのでその範囲内でアタックタイムを遅くするとアタックの倍音はより逃げて出力される(アタックが明確になる)→結果アタック部分の高域が明確に感じることになります。


今度はリリースタイムに注目します。


もしもリリースタイムを今より遅くすると音色はどんな風に変化するでしょうか?、リリース成分の時間の中で圧縮から元に戻るのが遅くなるのでその間基音や低域成分の戻りが遅くなる(小さくなる)→低域が減るように感じることになります。別の見方をすると低域がタイトに感じるかも知れません。


今度は逆にリリースタイムを今より速くするとどうなるでしょう?、リリース成分の時間の中で圧縮から元に戻るのが速くなるのでその間の基音や低域成分の戻りは速くなる(大きくなる)→結果低域が増えたように感じることになります。別の見方をすると低域がルーズに感じるかも知れません。

今度は先ほどよりも遅めのアタックタイムと速めのリリースタイムのコンプレッサーをかけると仮定し、出てきた波形が青の色の線だとします。時間1がスレッショルドを超えた時、1から2までの時間がアタックタイムです。3がスレッショルドを下回った時、3から4までの間の時間がリリースタイムです。

これら2種類の設定の波形を重ねてみましょう。緑色の線が速めのアタックで遅めのリリースです(時間1のスレッショルドを超えた時からfaまでの時間がアタックタイム、3でスレッショルドを下回った時からsrまでの間の時間がリリースタイム)。青色の線が遅めのアタックで速めのリリースです(時間1のスレッショルドを超えた時からsaまでの時間がアタックタイム、3でスレッショルドを下回った時からfrまでの間の時間がリリースタイム)。

これらアタックタイムとリリースタイムのパラメータをバランスよく上手に扱うことで、コンプレッサーをダイナミクスコントロールだけではなく音色変化の要因のひとつとして使うことができます。これらはEQで音色変化をもたらすのとは違う効果があります。上手に扱えばよりいい仕上がりになりますが、下手に使うとなんとも大変酷い仕上がりになってしまいます。例えばアタックタイムを速くしすぎてとても抜けの悪い音になってしまったり、リリースタイムを長くしすぎて引っ込んだ音になってしまったりなど。こういう風になった音は元に戻すことは困難です。



今回のビデオではより積極的なダイナミクスのコントロールとともにあえて音色変化をもたらすためにBF76というプラグインを選んで使いました。いわゆる1176系のプラグインですが、この1176系のコンプレッサーは皆さんもいろんなところでよく目にすると思います。1176のいいところはその独特の操作性、パラメータコントロール性の良さ、音楽にハマった時の音色変化の良さなどにあります。特にロックやポピュラー音楽なら相性はとても良いです。


これらの変化の具合(イコール音色)はコンプレッサーの動作の系統や機種の違いで随分と異なります。エンジニアそれぞれに好みがあるので、当然人により使うコンプが違ったりしますし、また多くの人が使う(イコール人気のある)コンプにはそれなりに良い理由があるのも当然です。



コンプレッサーがもたらす音色変化はこれら以外にも様々な要因がありますが、それはまた改めてご紹介しようと思います。



今回はここまで、次回をお楽しみに!!



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